樺地。奴も、なかなか侮れない。力もあって、手先も器用だからな。・・・・・・断じて、テニスの話ではない。テニスなら、俺は勝つ自信がある。・・・いや、テニス以外でも負ける気は無いが。
ともかく、奴はマネージャー業にはピッタリの能力を持っていた。だから、いつもマネージャーのにも頼られていた。


「樺地くん!お願いがあるんだけど・・・。」


そう言って、朝練が終わった後、は樺地に何かを頼んでいた。
耳打ちしていたから、内容はわからなかった。


「・・・いいかな?」

「ウス。」

「良かったー!じゃ、昼休みに部室に来てもらえる?」

「ウス!」

「ありがとう!貴重な昼休みをゴメンね。」

「大丈夫、です。」


それじゃあ、とはその場を去り、樺地は部室に入った。俺も、それに続いた。
何だかイライラしながらジャージを脱ぐと、ジャージの後ろに、何かが引っ掛かった跡があった。そこまで目立つものでもなかったが、そのおかげで、更にイラつきが増し、俺はジャージをロッカーに投げ入れた。
その後、教室でもソワソワしているを見て、もっとイラついた。昼休みも、いつものように練習に行こうという気が起こらない。


「日吉。今日は練習しないの・・・?」


何だよ。そんなに行ってほしいのか?
俺は、ついにキレ、自棄になって席を立った。


「今から行く。」

「そっか、頑張ってね。」


は、俺が機嫌を悪くしていることにも気付かず、俺を見送った。・・・周りが見えなくなる程、樺地に会うことが待ち遠しいようだな。
ムシャクシャする気持ちをボールにぶつけ、俺は思いっ切り力を入れて、壁打ちをした。いつもは制服だから、軽く打つ程度なのだが、今の俺にとっては、そんなことどうでも良かった。
・・・くそ。今頃、あそこの部室で2人は何を話してるんだ。
部室の方が気になり始め、壁打ちに集中できなくなった俺は、早めに切り上げた。そして、戻ろうとしたとき、ちょうど部室から2人が出てきた。


「それじゃ、ありがとう!またね〜!」

「ウス。」


俺は咄嗟に、部室の方へは曲がりきらずに、その場に隠れた。・・・何やってんだよ、俺は。そう思い、俺は自分を落ち着かせてから、角を曲がろうとした。


「わ!ひ、日吉?!」


しかし、もこちらに来ていて、ぶつかりそうになった。


「れ、練習は?」

「・・・今、終わった。・・・で、は?なんで、こんな所に?」

「私?それは内緒っ。部活が始まったら、わかるから。楽しみにしといてー。」


樺地に会いに来たんだろう?そう思ったが、深くは聞かないことにした。・・・それに、部活が始まれば、わかるらしいしな。・・・・・・・・・・・・・・・だが、本当に何なんだ?


「日吉っ。一緒に、教室戻ろう?」


いろいろと考えを巡らせていたら、が嬉しそうにそう言って歩き出した。俺も、答えは出せぬまま、について行った。
教室に戻っても、はソワソワしていて、本当に何があるんだ?と思った。そして、部活に行こうとすると、は走ってこちらに来た。


「日吉っ!部活、早く行こう?」


クラスが同じため、俺たちはいつも一緒に部活に行くが、こんなに急いで、が来ることは今まで無かった。・・・そんなに楽しみなことでもあるのか?
着替えようと、部室に入りロッカーを開けると、そこには今朝投げ込んだジャージがあった。・・・そういえば、何かが引っ掛かった跡があったんだ。今日持って帰ろうと、それはロッカーに仕舞ったまま、俺は部室を出た。すると、そこにはが居た。


「日吉・・・、ジャージは?」

「何か破れてるから。」

「じゃ、貸して!そのためのマネージャーでしょ?」

「・・・別に、家でできる。」


未だ機嫌が直っていない俺は、素っ気無くの助けを無視した。


「そ、そうだよね・・・。私なんかがやったら、もっと目立っちゃうかもしれないもんねっ!」


明らかに悲しそうに、はそう言って、下を向いた。・・・そんな顔をしてほしいとは思っていない。だが、俺もまだイラついている。だから、また素っ気無く言った。


「ところで、昼休みに言ってた、部活が始まったらわかる、って何なんだよ。」

「・・・あぁ、それね。・・・・・・今、断られたから、わかんないね。・・・昼休み、樺地くんに頼んで裁縫を教えてもらってたの。何かが引っ掛かった跡を見えなくするような縫い方を。今朝、日吉のジャージがそうなってるのを見たから、直そうと思ってたんだ・・・。」


・・・何だよ、それ。じゃあ、早く直したくて、部活にも急いで来たのか?俺のジャージを・・・。
・・・・・・・・・それなら、話は別だ。


「じゃあ、頼む。」

「で、でも・・・。上手くできないかもしれないよ?」

「昼休み、樺地に教えてもらったんだろ?だったら、やってみろよ。やってもらって文句は言わないから。」

「でも・・・。」

「今から持ってくるから、そこで待っとけよ。いいな?」

「・・・・・・うん、わかった。させてくれて、ありがとう!」

「馬鹿。礼を言うのは、こっちだろうが。」


それだけ言って、俺はまた部室に戻った。・・・昼休み、樺地と過ごしても、は俺のことを考えていてくれたのだと思うと、樺地は敵ではないなとか考えてしまった自分に笑いながら、ロッカーからジャージを取り、急いでに渡しに行った。




***** ***** ***** ****** *****




俺は、力と器用さには自信があります。だから、マネージャーのさんのお手伝いも、できることはしようと思っています。


「樺地くん!お願いがあるんだけど・・・昼休み、裁縫を教えてほしいの。」


そう言って、朝練が終わった後、さんは俺に耳打ちしました。


「・・・いいかな?」

「ウス。」

「良かったー!じゃ、昼休みに部室に来てもらえる?」

「ウス!」

「ありがとう!貴重な昼休みをゴメンね。」

「大丈夫、です。」


それじゃあ、とさんはその場を去り、俺は部室に入りました。日吉も、自分に続いて入って来ました。何だかイライラしている日吉のジャージを見ると、ジャージの後ろに、何かが引っ掛かった跡がありました。そこまで目立つものでもありませんでしたが、たぶん、さんはこれを見つけたのだろうとわかりました。・・・さんは、日吉が好きらしく、特に日吉の異変には気付くでしょうから。

昼休み、俺が部室に向かうと、誰かが思い切り力を込めて、壁打ちをしているような音が聞こえました。何かにイライラしているような気もしましたが、さんとの約束もあるので、その音のことは気にせず、部室に入りました。


「あ、樺地くん。こんにちはー。」

「こんにちは。」

「あの、早速なんだけど・・・。何かが引っ掛かった跡を見えなくするには、どういう縫い方をすればいいか、教えてもらえる?」


・・・やっぱり、今朝の俺の考えは当たっていたようです。


「ウス!」

「ありがとー!じゃ、これを使って。」


そう言って、さんは部室の裁縫箱を取り出しました。まず、裁縫箱に入っていた、不要な布を使って、自分が手本を見せ、次に俺が縫っているのを見ながらさんも縫い、最後にさんが1人で縫って練習しました。


「・・・ふー。こんな感じかな?」

「ウス。・・・良いと、思います。」

「よかった・・・。ありがとう、樺地くん。教室に戻ってくれていいよ。私は壁打ちしてる日吉を見に行ってくるね!」

「ウス。」


さっきのは、日吉だったみたいです。今朝もイライラしているようでしたが・・・。
そこで、俺はふと思いました。もしかして、自分の所為かもしれないと。日吉もさんのことを好きみたいでしたから、俺と話しているのを見て、イライラしていたのかもしれません。
そう考えると、早く戻らなければと思い、俺は急いで部室を出ました。さんも、早く見に行きたいらしく、俺について部室を出ました。


「それじゃ、ありがとう!またね〜!」

「ウス。」

「わ!ひ、日吉?!」


後ろで、さんの驚いた声が聞こえましたが、聞こえなかった振りをして、俺は教室に戻りました。・・・日吉の機嫌も直ればいいですが。

放課後、部室に行くと、そこには既にさんがジャージを持って、真剣に裁縫をしていました。


「あ、樺地くん。ゴメン、着替えるよねー。あっちの部屋に行くね。」

「ウス。・・・ありがとう、ございます。」

「いいよ、いいよー。ってか、早速、昼休みに教えてもらったこと実践してるの!」

「・・・きっと、上手く、できます。」

「へへ、ありがとう。そうなるように、頑張ってくるね!」


さんは嬉しそうにそう言って、隣のパソコンがある部屋へ移動しました。
着替え終わって、コートに出ると、そこには嬉しそうに自主練習している日吉が居ました。
2人とも、幸せになってほしいと改めて願いました。













樺地くんは、ちゃんと優しいです!(笑)
あと、今回も視点別に会話の内容も少し違っています。・・・やっぱり、日吉くんは同い年と親しくないのでしょうか(笑)。

それにしても、樺地くんの視点は非常に難しかったです・・・!(苦笑)ずっと敬語でいいのか、一人称は何なのか、などと大変苦労しました・・・。
その割に似非過ぎて、すみません・・・;;

('09/11/12)